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グレートマザー列伝

「有休」、大好きな言葉です。「三連休」、これも大好き。日曜に夜更かしするという優越感。今週だけは、マンデー、おまえのことを愛してる。なんて惰眠を貪っていたのに邪魔されて、というか脇腹に激しい痛みを感じたので目が覚めた。無表情な母さんが僕の脇腹をどすどすと蹴っているのは夢、ではないようだった。「いつまで寝てるのですか?早く仕事に行きなさいこのゴクツブシ」という、朝の挨拶とは思えないような罵詈雑言まで聞こえてきたから。明日は休みだってちゃんと昨日の晩に言っといたはずなのに。このモウロクババアめ!ゴー!老人ホーム!と心の中では罵りながらも、でもそれは母親思いでありますところの僕なので、「母さんおはよう。ところで今日は僕、休みなんだよね。てへっ」とむりくり笑顔をこしらえて、まるで今はじめてそれを伝えるかのように教えてあげる。でもそんな思い、まるで通じなかった。「ごめんごめん。でもそういうのはちゃんと昨日のうちに教えてくれんと困るわ…」つってそんな真顔で答えられても。寝たらアウトか。その日暮らしか。いやはや老いとはおそろしい。いや違う。「じゃあ今日は母の日のプレゼントとか、買いに行っちゃうのかな?」とまたしても真顔でそんなことを口にしてしまう彼女を見るに、真におそろしいのは老いではなく、人間なのだ。自分に都合のよいことだけはしっかりとインプットされ続けてしまうのね。でも今日は別の用事もあったため、申し訳なく思いつつ、「ごめん。これで好きなもの買って」と1万円渡した。そりゃ現金なんかより、それこそ花束とか、なにか心のこもったような贈り物のほうがいいに決まってる。いっしょに買い物へ行くなりするのもいいだろう。でもまあ、何も渡さないよりはマシだと思って渡したのに、それがいけなかったのだろうか。僕の母さんが壊れちゃった。「これはこれでもらっとくけど、プレゼントだってもらうから」と言いながらにっこりしている母さん発見。おぬし、今、何を申されたか。「これはこれで」の意味が拙者には分からぬのでござる。どう考えても「これだけ」でござろう。ゴー!ホスピタル!と心の中でSOSを発信しながらも、でもそれはしつこいようだけども母親思いでありますところの僕なので、「えっ、えっ、それもうちょっと分かりやすく説明してくれる?」と引きつる顔を必死にこらえて、まるで出来の悪い生徒が先生に甘えているかのような状況にもっていく。なんだこの孝行息子は。これだけでも十分に母の日にふさわしい、目に見えない贈り物じゃないか。なのに彼女ったら溜息ひとつ漏らした後に、「あんたなあ。大会に優勝したら賞金とは別に副賞がもらえるやん。そういうことやん」という、謎めいた言葉を残して便所に消えていったのだった。あなたがいつ、何の大会に優勝したのかも分からなければ、そもそもいつ、僕はその大会のスポンサーになったのかも分からない。そんな疑問を残したまま、副賞は自転車に決定しました。

狂人の太鼓

狂人の太鼓

  • 作者: リンド・ウォード
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2002/10
  • メディア: 単行本