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驚きの白さ

洗剤を売るために、洗剤の人は「驚きの白さ」と言う。かくして私は驚いた。私の友人も驚いた。それは、まったくもって本当に、驚きの白さだったのである。
まず、物理的にいって白さには限界がある。#ffffff程度の白さでは、まったく誰も驚かない。驚くにはまず、この限界を超えるところから始まるだろう。
そのため、洗剤の人は白を超越したまったく新しい白さを打ち出したのである。これには誰もが度肝を抜かれる。白といえば、あの、牛乳のような色でしかないと誰もが諦めの気持ちを持っていたのを、彼女はするりと飛び越えてしまったのである。欧州では、このまったく新しい白を認めるかどうかでEU解体の危機を迎えているそうだ。我が日本においても、インターネットを中心に活発な論争が日夜おこなわれている。人々はみな、驚きの白さに驚いてしまったのだ。
洗剤の人の洗剤は飛ぶように売れ、驚きの白さはますます伝播し、世界の秩序はこの白によって瓦解を始めた。それは、あまりにも白すぎたのだ。
やがて驚きは、やり場のない、不条理な怒りへとすり替わった。この白を生み出した彼女に、日本の最高裁は死刑を宣告した。司法の場において、私情を優先するのはあってはならないことだが、大多数の人間はこれを支持した。もはや秩序などないのである。人々はただ、白の驚きから逃れたいがために、藁にもすがる思いで、あるいは八つ当たりとして、彼女を殺したのだ。
だが、一度生まれてしまった白は、もはやリセットできない。唯一のスケープゴートを失った人類は、発狂する者も出始め、もはや理性など望めぬ畜生へと堕していった。
白いのだ。それは、本当に、白いのだ。私は、私の目が光を失えばいいのにと何度も思った。自ら両の目を潰そうかとも考えた。しかし、その白の驚きに、私はあろうことか、感動していたのである。まるで見たこともない白、圧倒的な美を誇り、他の何者をも寄せ付けない、人類史上最高の、最も冷酷な芸術品。私は、それがもう二度と見られなくなることを恐れ、白の美を畏れ、夜は眠れず、食事は出来ず、ただ奴隷のように白による驚きの洗礼を浴び続けた。
「ハイ、ではマラソンのほうはどうなったでしょうか。お台場の滝川アナー」

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