金の死体、銀の死体

前回の日記から1年以上が経過しているのはおそらく気のせいだとは思うのですが、世の中はやれオリンピックだ、シン・ゴジラだ、やはり今でも最高のAVは「宅配痴女」シリーズだ、などと騒いでおり、でも今年の健康診断で中性脂肪の数値が過去最高を記録したわたしにとってはあまり関係がありません。歯医者より先に行くべき病院があるのでは…と最近うっすら気づきはじめたところなので、もう少しお時間ください。

ところでお盆なので怖い話を書こうと思います。大人用のおむつの準備がまだの人は今すぐお願いします。恥ずかしいのは最初だけ。じきに慣れる。そしてクセになるので。

確かあれは第一次世界大戦が終わってすぐの、わたしがまだバリバリの仮性包茎だった頃、当時交際中の女性とニャンニャン中に自分でも予想しないタイミングでフィニッシュしてびくんびくんしてたら「えっ?」と声を漏らされて、瞬時に下半身から頭に血が上り、さっき出したものと同じくらい頭が真っ白になり、気がついたら号泣しながら彼女の首を絞めていました。今度はこっちが「えっ?」と声を出す番でした。慌てて手を離して心臓に顔を当ててみましたが、鼓動している感じはまったくありません。おそるおそる黒みがかった乳首をちょんと触ってみましたがやはり無反応。どうやら死んでいるようでした。

まじやべえ…と思ったわたしは冷たくなった彼女を納屋にあったブルーシートでくるみ、車のトランクに放り込んでからパンツを履き、夜になるのを待ちました。父と母が寝静まったのを確認してそっと家を抜け出し、車で某自然公園のハイキングコースへ向かいました。法定速度を守りながら慎重に運転すること40分、山頂付近の駐車場に到着し、辺りに誰もいないのを確認してからトランクから引きずり出した死体を抱きかかえ、えっちらおっちら歩きました。

汗だくになりながらなんとか池に辿り着きました。当然ながら罪の意識はありましたが、それよりも早く家に帰って録り貯めしたアニメを見なければ…HDDの空きが…という気持ちが勝り、GRANRODEO「Go For It!」を口ずさんで自分を励ましながら死体を下ろし、シートの中に手ごろな石を詰めました。いくつもいくつも詰めました。そしてコロコロ転がしました。やがてぼちゃんと音がして、ゆっくり水の中に沈んでいく彼女。何の意味もないとは思いますが、ただなんとなく手を合わせてその様子を見ていると、沈みきったと思いきや、突然ざわざわと水面が波打ちはじめました。何が起ころうとしているのかまったくわからず、ただ茫然としながら佇んでいると、池の中からヌポポポポという音とともに老人が現れました。おそらく80歳は越えているであろうその老人は全裸でした。はたしてその年齢とやせ細った身体からはおよそ考えられないほどの力強くそそり立ったおちんちんが月の光にぼんやり照らされていました。この異常な光景にある意味ではふさわしい神秘的な輝きを放っていました。老人は何かを言いかけ、ふと視線を下に落とし、あっという顔をして水面に浮いていたビニール袋を自分のおちんちんにかぶせると、低くしゃがれた声で言いました。

「こんばんわ。わたしは池の精。またの名はサブロー。それ以上は聞かないで。ノーコメント。ところでおまえが落としたのはこの金の死体かな?」

するといつの間にか、老人の右側に金色に輝く死体が浮いていました。当然ながら見たこともない男性でした。わたしはちがうと答えると、老人はすかさずこう問いました。「ほほう…では、こっちの銀の死体かな?」

老人の左側に銀色の死体が浮いているのには気づいていたので、やっぱりそうくるか…と思いながらわたしはまたちがうと答えました。近所の借金こさえたまま行方知れずになったおっちゃんに似すぎているなとは思いましたが、そう答えました。老人の真ん前に浮いている、わたしが沈めた彼女の死体を見ながらそう答えると、老人はしたり顔になりながら「では、こっちの」「ちがいます」

自然と食い気味に答えていました。すると老人の表情がみるみるゆがんでいき、歯ぎしりをしているような顔になりました。でも歯がないので、まったくの無音でした。まじジジイ…と思い、少し冷静になり、この時点でようやく今起きていることの異常さに改めて気づきましたが、時すでに遅しのようでした。「ほほう…ならこの3つ、全部おまえにあげようではないか」という言葉だけを残し、ヌポポポポという音とともに老人は水面に消えていってしまったのです。増えた死体を前にがっくりと膝をついたわたしは…わたしは何を書いてるんでしょうか…

 

嘘の見抜き方(新潮新書)

嘘の見抜き方(新潮新書)

 

 

BOYS BE…みたいな恋に憧れてたあの頃の僕らは

金曜日、わたしは「ワルキューレの騎行」で目覚めました。藤原喜明さんの入場テーマ曲でおなじみのあれですけど、わたしにとっては会社から支給されている携帯電話が着信した時に奏でるメロディでしかなく、しぶしぶ通話ボタンを押すと「…何しとんの?」と上司の不機嫌そうな声が聞こえてきました。「おはようございます!」と爽やかに挨拶するわたし。「今何時やと思てんねん?」とまた質問を浴びせてくる彼。朝からうっとおしい…と思いながら時計を見るわたし。…13時?…えっ、お昼!と驚いていると、「今どこや?」とさらに質問を浴びせてくる彼。どうやら5W1H責めをされているということには気づいたものの、自分でも信じられないのですが布団の上にいます…とは言えず、抱えた枕に顔をうずめてイヤイヤをしていると、遂に噴火する上司のハゲ山。「電車は止まっとるけどおまえ車通勤やから関係ないやろ」とか「だいたい余裕で歩いて来れる距離やろ」とか「便乗して休んでんちゃうぞワレ」とか「休むなら休むで電話してこんかいボケ」とか間髪入れずにまくし立ててきました。この状態を我々の間では「煉獄」と呼んでおり、発動されたが最後、目の焦点が合わなくなった相手がまるで操られているかのように謝罪の言葉を述べはじめるか、上司が飽きるまで続きます。だからわたしはやれやれだぜ…という顔をしながら電話を切りました。するとすぐに電話から着信音が聞こえてきたのでまた通話ボタンを押し、「弁護士が来るまでは何も話しませんから」とだけ告げて電話を切り、ついでに電源も切り、床板をめくり、漬物の容器の上にそっと置き、床板を元に戻しました。

部下が出勤していないのを勝手に台風のせいだと決めつけて激怒する軽率な上司とほんの6時間ほど寝過ごしたせいで出勤しそびれてしまった部下。上司のほうに問題があるのは考えるまでもないわけで。とりあえず台風に謝ってほしい。しかも今回、部下にははちゃんとした理由があった。興奮して朝方までほとんど眠れずにいたわたしをいったい誰が責められるのか…

木曜日、巨乳の彼女と週3ペースでエッチしている後輩が「まだ何も終わってませんよ~!」と足にしがみついてくるのを左右の掌打と膝蹴りで昏倒させると、「お先に失礼します」と言いながら3階の窓を突き破って会社を出て、両腕にガラスが刺さったままゆり子さんの職場近くまで車を走らせました。台風ごときに彼女を濡れさせるわけにはいかない。彼女を濡らすのはわたしだけでいい。そんな強い気持ちに衝き動かされたわたしは会うなり「風が強いですから…」と言っては肩に手を回し、「おっと危ない…!」と言ってはさらにぐっと引き寄せて、全神経を集中させた右上腕部にオッパイの感触を永久記憶させていました。安全運転というよりむしろ迷惑行為に近い速度で自宅の前までお送りすると、傘を開きながらイーグルアイで半径20メートル以内に誰もいないことを確認し、わざとらしく咳払いをしたわたしは、「ひ、一人にさせるのは心配なのでおまじないを…」と意味不明な言い訳をしたのちチュウをしました。唇が当たった瞬間、身体中に電気が走ったようなびりびりとした感触があり、また目を閉じているにもかかわらず、純白のワンピースをお召しになられて草原に佇んだ石田ゆり子さんが微笑みながら手を振るのが見えました。すわ何事かと思い、そうっと薄目を開けるとゆり子さんの顔が間近に見え、まつ毛すらかわいいなこの人…とうれしくなり、また目を閉じたらお昼に食べたカツカレーのことをふと思い出して、でもゆり子さんもカレーは好きなのでまあいいかな…と思ったりしていると、背中をぺしぺし叩かれたのでチュウをやめました。

「長いです…」「いきなり苦情…」「初回なのにこの長さは…」「そんなルールありましたっけ…」「というより空気が足りなくなりましたので…」「鼻で息できないタイプですか…」「鼻息の荒い女だと思われるのはちょっと」「鼻息の荒い女性は僕も苦手で」「黙れ」「あなた顔めっちゃ赤いですよ…」「これは息でけへんかったから!」「だから鼻」「本気で怒りますよ…」「ごめんなさい。もう言いません」「ところで田中さん、今日はどうしたんです?」「えっ、どうもしてませんけど…」「ぐいぐいというか…積極的というか…」「風に背中を押されたのかもしれません」「台風のせいなのですか?」「台風のおかげです」「たまにはいいと思います」「…うん」「だいぶ待ちました」「…うん」「次はわたしもこっそり鼻で息しますので」「フンフンする?」「フンフンしません」「していいんですよ?」「しません」「…今からもう一回します?」「しません」「しましょう」「背中びっしゃびしゃじゃないですか田中さん」「しましょう」「タオル取ってきますからちょっと待っててください」「しましょう」「風邪引きますよもう…」「しましょう」「…します」「しま…はい?」

復習はだいじ。おっさんに似つかわしい柄のタオルを首に巻かれたおっさんはそんな当たり前のことを思いました。

 

U.W.F.変態新書 (kamipro books)

U.W.F.変態新書 (kamipro books)

 

 

賞与が出ればパスタ屋のテーブルは揺れる

週明けの会議で配布する資料をチェックする前に軽く充電しておこうとiPhoneを取り出し、アルバムから「世界遺産」フォルダを開いて浴衣姿で照れながらピースするゆり子さんの写真に話しかけていると、「ええ年して彼女できたぐらいで浮き足立って、見ててしんどいわもう…」と上司に声を掛けられました。ゆり子さんとはわたしがおつきあいをしている女性のことであり、つまり石田ゆり子さんとは無関係なわけですが、いまだかつてゆり子さんが夢に出てきたことはありません。大事な人によからぬ行為をしでかすのでは…という恐怖心から無意識のうちにブレーキを踏んでいるのかもしれません。石田ゆり子さんもまた然りではありますが、「医師たちの恋愛事情」などというタイトルからして嫌な予感たっぷりのドラマを見る勇気が出ないまま、展開を想像しては身悶える日々が続いた結果、夢の中でわたしは斎藤工さんに抱かれていました。斎藤、かなりのテクニシャンでした。「なあ、ほんとはこうしてほしかったんだろ?」とわたしの乳首(主に左)を執拗に責めながら耳元で囁く斎藤。そんなわけないから…と斎藤をにらみつけながらも身体は敏感に反応してしまうわたし。小一時間ほど滅茶苦茶にされてなかば放心状態でぐったりしていると、後ろからやさしく抱きしめてくる斎藤。おしりに何か当たってるから…とは言えずに、でもそんなにしたいんなら…もう一回していいよ…と斎藤の手をぎゅっと握るわたし。これ以上はさすがに書けませんが、目が覚めたら布団のシーツを握りしめていました。愛が憎しみに変わることもあればその逆もあるのでしょう。勉強になりました。

上司に声を掛けられた後、トイレへ駆け込んだわたしは驚きました。鏡には、確かにええ年をこいた男が映っていたからです。具体的には会社員というより番号で呼ばれるたぐいの顔つきをした男が映っていました。さらに足元を見ると、確かに浮き足立っていました。むしろ1センチほど宙に浮いていました。どうも最近ふわふわしているなという自覚はありましたが、まさか浮いてるとは。同期の人と会うたび「おまえ浮いとるよなあ」と言われては意味がわからず困惑していたのですが、これのことだったのか…と合点がいったわたしは、浮遊したままホバークラフトのようにすすっとフロアに戻り、気を取り直して資料をチェックしはじめました。しかし集中できず、読み進めることすらままなりません。霧のような黒いもやもやとしたものが頭の中に広がるのを感じました。部下の仕事ぶりをよく見ているなと上司の暇つぶしっぷり…もとい観察眼には心の底から敬服せざるをえませんが、エアコンの風でなびいているそれを前髪と呼ぶには無理があるだろう。さかなクンからしたらあなた、完全にチョウチンアンコウですよ。いや違う。そのようなことではないのです。おそらく以前に彼から浴びせられた言葉がもやもやの正体でした。

「おまえもなあ、結婚して家庭を持ったらもうちょっとピリッとするんやろなあ」

ピリッとしていない人に言われても…という以外の感想はそのとき特になかったのですが、ともあれ今のわたしには、この言葉を実現する可能性が生まれているわけです。辿り着けるかどうかは別として。だとしたら、ゴールに向かって走りだした部下に対して、まず彼がなすべきは激励なのではないか。にもかかわらず、蔑むとは何事か。冗談は生え際だけにしてほしい。多少浮き足立っていたとしても、文字通り地に足がついていなかったとしても、当面の間は大目に見てほしい。そもそもゆり子さんとおつきあいしていて浮き足立たない人間がいるとも思えない。下手をすると空を飛ぶかもしれません。君と出逢った奇跡が、この胸にあふれてる。そんな歌もありました。だからわたしは上司のデスクまで浮遊し、とある関係筋が飲み会で漏らした「最近娘さんが口きいてくれないらしいですね…」という情報をぼそりとつぶやき、また自席まで浮遊しました。

上司がぴくりとも動かなくなったのに満足して資料を読み進めたり手直ししたりしていると、電話がかかってきました。相手はもちろんゆり子さんでした。浮遊しながら休憩室へ行き、電話を取ると、いつもよりだいぶ興奮した声で「うれしいお知らせがあります」と言うので、で、できちゃった…?してないのにできちゃった…?と不思議に思いながら「落ち着いて説明してください。何かあったんですか?」と問うたら、「パスタのタダ券二枚もらいました!」とのことでした。ドリフならタライが落ちてくるところでしたが、ひとまず休憩室の丸椅子から滑り落ちて壁に激突しておきました。かわいいからいいのですが、ゆり子さんは食べ物のことになるとちょっとネジが緩むのです。電話を切ったわたしは「急用ができたので帰ります」と石像と化した上司に告げて、ギャバンの蒸着ばりの速度で帰り支度を済ませたのち退勤しました。

彼女の職場近くの駅前までお迎えにあがってからパスタ屋さんに行きました。ゆり子さんはポロシャツをお召しになっていたのですが、ウサギのようでウサギでない、笑い声はたぶんケケケッでしょうねみたいなキャラクターが胸元に刺繍されていました。わたしは流行に疎いのであまり自信がないのですが、もしかしたらゆり子オリジナルなのかもしれません。それはさておき注文した貝やらエビやらが盛られたパスタを食べながら、「彼氏ができたって職場の後輩に言ったらお祝いですってタダ券くれたんですよ~」とうれしそうに言うのでわたしもうれしくなりましたが、「日本兵みたいな髪型なんやでって言ったら声出して笑ってましたね…」と言いながら鼻をひくつかせはじめたので、すぐ無表情になったりはしました。

ところで事件は食後に起きました。コーヒーまたは紅茶までタダでついてくるというので、破産しますよこのお店…!おかわり自由とかやめるんだ…!いや、それとも実は大富豪が経営しているのか…?と推理を働かせていると、「ボーナスも出たことですし、旅行とかどうでしょう?ちょっと遠出したりなんかして」とゆり子さんが言いました。「それは泊まりということですよね?」と意地悪なことを言われた仕返しにわたしが言うと、彼女は少しの間を空けてから、こくりとうなずきました。もう一度書きますが、こくりとうなずきました。…いや…いやいやいや…いやいやいやいやいやいや、あなた、泊まりですよ?…つまり日帰りではないということですよ?…意味わかってますゆり子さん?ええ、ええ、顔を赤くされてもこっちとしても対応に困りますから。完全に想定外ですその返し。ゲオのアダルトコーナーの暖簾くぐったら常務がいた時ぐらいびっくりしてますから今。念のためいちおう説明しておきますけど、泊まりということはですよ、障子を開けたらひとつの布団に枕が二つ並んでたりするあれですよ?わたしも映像でしか見たことないから自信ないですけど…一緒に寝るだけでは終わりませんよねたぶん…とかなんとかいろいろ頭の中がぐるぐるしてきたのと同時に、若干ですよ、若干ですけど、パスタ屋のテーブルががたっと揺れました。これが超能力なのかわたしの勃起力の仕業なのかはみなさんのご想像におまかせしますが、なんにせよ、家庭を持てばピリッとするかはわかりませんが、賞与が出ればパスタ屋のテーブルは揺れる。これはゆるぎない真実です。

 

斎藤工 蜷川実花 箱根編(限定復刻版) (写真集)

斎藤工 蜷川実花 箱根編(限定復刻版) (写真集)