たとえば、僕が死んだら

朝起きると頭がずきずきと痛んで悶絶。とてもじゃないけど会社に行けるレベルではなかったので職場に連絡して、再び布団に潜り込んだ。痛いの痛いの飛んでけ…。まじないが効いたのか10分くらいするとだんだんと、FIELD OF VIEWならDAN DANと、美味しんぼのOPならDang Dangと痛みが治まってきた。パチンコ屋から送られてきたであろう「お宝台のヒントその1:緑」という一通のメールが僕の身体にどんくらい影響を与えたのかそれはわからないけれど、コンディションはオールグリーンで9時半には家を出た。パチンコ屋に到着して煙草を2本吸い終わったところで10時ジャスト、迷うことなく5台並んでいるドカベンパチスロ)のシマへ全力疾走。明訓高校野球部のヘルメットの色が緑であることに気づき、カド台にはすでに先客がいたのでその隣をぬかりなく確保したその瞬間、サクセスストーリーへの道標がはっきりと見えた。ベンツ小林、マンション久保田、そんな感じでクルーザー田中と改名する日も近いであろう。残りの3台が早いもの勝ちなのに一向に誰も座らないことにも不安を感じずに僕は、明訓高校校歌を口ずさみながら打ち始めた。


ところがどっこい1時間ほどして、僕は僕の失敗に気づいて森田童子さんの唄を口ずさんでいた。何も当たらないままに何十人もの漱石が失踪していたからだ。岩鬼殿馬や里中がパチンコ屋から栄養費をもらっているという明訓高校野球部の黒い噂は聞いたことがない。だったらこの台はおそらく低設定なのだろう。こりゃいかんと腰を浮かせたところで「おい、にいちゃん、このバカボンチャンスってなんや?」と僕の脇腹をヒジでぐりぐりしながら問うてくるのは隣のおっさん。初対面でましてや質問する側なのにその傲岸不遜な態度はいかがなものかと、何様なのか?沢尻様なのか?と憤慨するのも忘れて椅子からずり落ちた。おっさんの台が当選しているのはドカベンチャンス。ドカベンバカボン、語感以外は似ていない。でも不思議なことに、おっさんとバカボンのパパは似ていた。扇風機あるいはエアコンの吹き出し口につけられてるひらひらとしたやつのごとく鼻の穴からそよいでいるのは大量の毛、毛、そして毛。それありきのボケだったのかしらとしか思えないレベルでこんにちわしていた。いやいやそんな生易しいものではない。鼻毛というよりはむしろ毛鼻だった。コミケではあまり見かけない類のコスプレイヤー(衣装代ゼロ)にちがいなかった。写真撮影はのちほどお願いすることにして、ドカベンチャンスについて説明してあげると、途中で「もうええわ…。むつかしいこと言われても、ようわからん…」とそっぽをむかれた。でも腹は立たなかった。これとて頭の中身までパパに似せようとする、おっさんのプロ意識が為せる業なのだから。これでいいのだ。舌を巻き、しっぽを巻き、おっさんから後ずさり、店を出る前にささやかな嫌がらせとしておしぼり(無料)を大量に使って顔を拭きまくっていたところ、先週の新台入替で導入されたばかりの仮面ライダーDX(パチスロ)が目についた。嘘だろおい…。僕はおしぼり(無料)を思わず床に落とした。ぼやけた視界に映るのは仮面ライダーV3の全身を彩る鮮やかな緑。なんなら両目まで緑でやんの。はっ!としながら僕は、財布を見た。コンドームと同じくらいに薄かった。もう、どうすることもできなかった。道標かと思っていたあれは墓標。ぼひょーん。

パチスロ未練打ち 人の数だけ未練あり

パチスロ未練打ち 人の数だけ未練あり

  • 作者: 木村魚拓
  • 出版社/メーカー: 白夜書房
  • 発売日: 2006/07
  • メディア: 単行本