はてなダイアラージャンプ漫画百選「みどりのマキバオー」

ロクさんから託されました(id:roku666:20050808:p2)。お、俺、どっちかっていうと、週マガ読者なんやけど…という弱気な自分とは今日でさよならしてゆきます。というのが2005年8月8日の深夜1時の出来事です。遠い日の思い出。それはさておき今は週マガと月マガしか読んでませんが、小中高の間はそれこそコソコソと、早売りを買いに行くほどのジャンプ愛読者でありました。何度かジャンプ放送局にハガキを出したこともありますし。ちなみに早売りを買いに行ったらいつも新聞紙にぐるぐる巻きにされており、あと、「家に帰るまで新聞紙めくったらあかんで!」と店のオバハンに毎回耳打ちされました。秘密の取り引きっぽくてドキドキしたことよりむしろ、そのオバハンの息のくささが記憶に残っていますがジャンプ漫画についての思い出も当然残っています。星の数ほどの思い入れ。その中から、既に百選に挙げられたやつを回避しながら押入れを引っくり返しました。押入れの中には布団ではなく、古い漫画が詰め込まれているのです。当時すごく面白かったのに読み返したら超さぶいやつもあったりして、ちょっと切なくなったりした夜もあったし、「はよ寝んかい!」と母親に押入れの引き戸を蹴られて泣きたくなった夜もありました。そんな幾千の夜を超えてようやく取り上げる作品が決まりました。次に参考のために先人の文章を読んでみたところ、ジャンプに対するなみなみならぬ愛情が鼻に目につきすぎるというか、とりあえず文章長すぎやろ。書きづらいわもう。10人のジャンプバカ軍団に見劣りしないような文章を書くのは相当に難しく、文章を書いては消し、書いては消し、紅音ほたるさんのDVDを見ながらこの潮吹きはクジラを超えたのではないか!と現実逃避で体力を消耗し、腱鞘炎になりかけ、また書いては消しを繰り返す日々。正直、おことわりしようかしらという弱気な自分、さよならしたはずのそれがまたこんにちわしてきました。でもそのたびにマッチョなロクさんが登場してくるのです。ロクビンマスクにタワーブリッジを決められて体を真っ二つに折られゲゲェー!と悶絶している自分。こわい。またPCの前で書いては消し書いては消し自慰しては先を拭きをくり返していると、ある時ふっと気づきました。そもそも太刀打ちする必要なんてどこにもないことに。その漫画に対する想いをまっすぐ文章にすればいいということに。とりあえず2週間近くかかってしまって申し訳ないという気持ちを回りくどく言い訳しておいたところで、つの丸先生の「みどりのマキバオー」を百選の一つに挙げたいと思います。この作品は1994年50号から1998年9号まで連載され、1994年50号から1997年18号までが第1部に、1997年24号から1998年9号が第二部になっており、完結編は赤マルジャンプに掲載されました(「武装錬金」と同じパターン)(時代を先取りする男、それがつの丸)。

あらすじ
始まりは主人公であるミドリマキバオーが生まれるところから始まる。その後、母のミドリコが堀江牧場に売られてしまったため、マキバオーは母親に会うため、生まれどころのみどり牧場から脱出。その後に、森の中で親分肌のチュウ兵衛との出会いによってさまざまな困難を乗り切って、母親と会う。さらにその後、将来のライバルとなる、カスケードと競争することによって、ミドリマキバオーは成長していくのである。

豆泥棒で捕まったモンモンがおさる刑務所にぶち込まれるという「モンモンモン」に代表されるように、とりあえずサルで笑かしにかかるヘタウマギャグ漫画家として名を馳せつつあったつの丸先生のことですから、連載当初はどうせまた今度も馬で笑かしにきよるに違いないと思ってました。そして期待を裏切らないつの丸先生。短足で尋常でない大きさの鼻の穴の主人公マキバオー。ちゃんと鼻水も垂れてます。そこらへん先生はぬかりないです。そしてボロボロとうんこを漏らすことからうんこたれ蔵と呼ばれ、生まれてから最初に発した言葉が「…すいません まちがえまちた」。そんなことを言いながら母馬であるミドリコの股ぐらに顔を突っ込みます。そして父親の名前はタマーキンだったりして、正直、なにかイヤなことでもあったのかなと先生の身を案じてしまいました。


というかまあ、普通に馬が喋れるという設定です。馬同士が会話するぐらいならまだ分かるのですが、レース後に報道陣が馬にマイク向けてますから。斬新すぎる。競馬場にいる観客がこぞって全裸である理由もさっぱり分かりません。挙げるときりがないのでこれぐらいにしておきますが、とにかくこんな適当かつ破天荒極まりなさに、やっぱりタダモノではないなと改めて先生の懐の広さに唸らされたのでありますが、実はこれすら序の口でした。その後、更なる懐の広さに思わず俺までうんこを漏らしそうになりましたもの。まさかこの漫画で感動してむせび泣く羽目になろうとは…。構想時点からギャグ漫画としての要素は少なめにするつもりだったのか、はたまた途中で偉い人のお達しがあって切り替えたのかは分かりませんが、とにかくレースを重ねるごとに先生のストーリーテラーとしての才能が開花していったのは確かでありまして、ライバルとの戦いで成長していくマキバオーとともに先生ご自身もすくすくと成長なされたわけです。もちろん画力のほうも格段にアップされて、中盤以降のレースシーンはこれぞまさしく少年マンガと言わんばかりの迫力でした。特に第108話の、先頭を走るカスケードを追いかける4頭を後ろから捉えた1コマには身震いしました。い、いつの間にか、ヘタウマ卒業しとるではないですか…!普通にうまいやん…!でもたまにどう見ても手を抜いてるようにしか見えない表紙絵があったりして、その辺はやっぱりつの丸先生ですねと思ったりもしました。


いちいち魅力的な登場人物の中で一番心に残ったのは誰と聞かれたら、そらもうマキバオーの騎手でありますところの山本菅助と答えます。ある種、これは彼のジョッキーとして成長する姿を描いた物語だとも思うのです。マキバオーが成長するのは主人公だから当然として、その乗り手として単に体が小さいからという理由しか見出せなかった彼が、そのやさしさゆえに見せたG1初挑戦のラストでの熱いムチ。菅助の気持ちが胸に染み渡ってきました。その後も何度かくじけそうになりながらもその度に立ち直り、勝ちたいという気持ちが強くなり、そうした気持ちの変化がきつつき戦法を生み出すのですが、この戦法にしろ、この後の日本ダービーでの親分とのやり取りにしろ、勝つために必要なものを気づいていながらもやさしさだけは捨てきれない菅助。でも、だからこそ彼とマキバオーは互いにかけがえのない存在として、人馬一体となって走れたのかもしれません。そして有馬記念の後に見せた涙。これは日本ダービーで見せた涙とはまた違ったものであり、親分やっと一人前になれたよ!っていう声が聞こえてきそうでやっぱり泣けるのであります。しかし親分の存在感の大きさ…。ねずみのくせに…。すごいな…。そして馬のみなさん。魅力的というかぶっちゃけアクの強い人間たちに全く食われることなく存在感を示せているのは、上にも書きましたが普通に喋っちゃうので、もう人間以上に、今までの競馬モノの漫画にはないぐらいに個性的に見えるからなのだと思いました。カスケード、サトミアマゾンニトロニクス、トゥーカッターといったマキバオーのライバルの面々が。中でもアマゴワクチンのかっこよさたるやもう!怪我に悩まされながらも兄ピーターIIの意志を次いで三冠を目指すワクチンが菊花賞を獲るシーン、今でもじーんとしてきます。彼にとってベストの状態で自分を抑えることなく、全力で走れたレースはこれが初めてだったのかもしれません。なんというか、本当に今まで耐えてきたのが報われてよかったねって思いました。


アニメ化されたことからも分かるように一時期の人気は凄まじく、ただその人気のせいで引っ張るだけ引っ張られて消耗しきったところで打ち切られるという、例の悪名高いジャンプシステムの餌食になってしまった悲しい作品でもあります。今読み返してみても、結果論ですけども、やっぱり第1部で完結していれば…という気持ちになります。日本ダービーでほとんど燃え尽き、その後ぐだぐだになって、有馬記念で最後にぶわっと派手に燃え上がって灰になってしまった感があります。なので、第2部の競馬ワールドカップは読むのが苦しくなるくらいに痛々しい。ベアナックルで笑いを取りにいったところがまるで逆効果、更に破綻させるだけで広げた風呂敷はそのままに終わってしまいました。何やらいわくありげなマキバオーとカスケードの弟にあたるブリッツが8冠を獲得するまでがかなり淡白に描かれてしまっているので、それならむしろこっちの風呂敷を広げたほうがよかったような気もしますが。でも、まあ、赤マルに掲載された完結編の出来がかなりよかったので、終わりよければ全てよしです。カスケードから受け継いだ教えを、例え満身創痍になっても挑戦し続けることでまた次の世代に伝えようとするマキバオー。それはきっと、次の世代のブリッツやエスペランサに受け継がれ、そのまた次の世代のマキバオーの息子へと…。

そんな名血を超えんとする馬たちが 明日の名血をまたつくる―

最終話の最後の最後でつの丸先生が書かれた言葉でもってこの感想を終わりにしようと思うのですが、それにしてもこの拙い感想で先生の偉大さと「みどりのマキバオー」の面白さが果たして伝わるのだろうか。というか、今ちょっと死にたくなってますけど、まあ何にせよ百選の一つとして挙げるにふさわしい作品には違いないと田中は信じていますし、未読で少しでも興味が湧いた人が書店などで手に取っていただければなあと、もしそんな奇跡が起こりましたらとても嬉しく思います。

みどりのマキバオー(10)

みどりのマキバオー(10)


んで、次に書いてくれる人を指名せねばなりませんが、今回でだいぶハードル下げといたんでかなり書きやすいはずです。というわけで、益田くん(id:singijutu)よろしくお願いします。