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ダンスがうまく踊れない

ゆり子さんを食事に誘いました。ゆり子さんとはわたしが想いを寄せている女の人のことであり、石田ゆり子さんとは無関係です。「医師たちの恋愛事情」とかいう名前のドラマは一秒たりとも見ていませんが、斉藤工さんが所有するすべての靴下が片方だけなくなったらいいとは心の底から思っています。医師たちよりおっさんの恋愛事情を今は大事にしたいのです。全てのゆり子がそうなのかは知りませんが、わたしが知るゆり子は全身から後光がうっすら差しているので見ていると自然に手を合わせてしまうという点においては瓜二つ、そしてゆり子さんの二つの瓜についてはいまだ謎です。BもしくはCの線が濃厚ですが、本当のところはどうなのか。この謎が解明される日はやってくるのか。いや待って。その前にチッスです。そろそろ金銭の授受が発生しない形でのチッスがしたい。したいんです。謎を解くのはそれからでいい。いいんです。窒息死する寸前までゆり子さんの瓜の谷間に顔をうずめて三途の川を行ったり来たりするのはその後です。それはさておき金曜日、仕事を終えたわたしが駅までお迎えにあがると、キャップ、Tシャツ、ショートパンツ、スニーカーといったいつもの大人っぽい雰囲気とは異なるファッションのゆり子さんが、ラーメン屋の前に立て掛けられたメニューに顔を近づけて食い入るように見つめていました。おなかがすいているのが丸出しでした。萌え尽き症候群に襲われたわたしはその場でしばらく勃ち尽くさざるをえませんでしたが、視界の端におまわりさんらしき人の姿を捉えて我に返り、前屈みのまま彼女に駆け寄りました。彼女は生足でした。前屈みを超えて二つ折りになりました。

「なんかいつもとちがいますね」

「フフフ…今日は上から下まで田中さんに寄せてみましたよ」

「ということはノーブラ?」

「なんでやねん」

「えー」

恋人同士の会話が寒いのはそうでもしないと熱さで溶けてしまうからだというのをこの瞬間に学びました。人は涙の数だけ強くなれるし、学んだ分だけ鼻の下が伸びます。しかし10秒後にはすっと真顔に戻りました。確かに先週ゆり子さんに大事な話を伝えたところ、「うれしいです」と答えてもらいました。上腕二頭筋以外の箇所がカッチカチやぞ!とは思いましたが、実は同時に「うれしいです」の意味するところは何か?という一つの疑問が芽生えていました。要するに、うれしい、楽しい、大好きなのはドリカムの中だけの出来事であって、現実にはうれしいイコール春のはじまりとは限らない。「うれしいです…でも仮性包茎の人はちょっと…」みたいな意味合いを含んだパターンがないとはたして言い切れるのかという不安。これはもう、仮性包茎を受け入れるのか受け入れないのか、その点をはっきりしていただく必要があった。悶々とした気持ちが破裂しそうになりいつも以上に仕事が手につかず、やめていたカントリーマアムにも手を出しました。夜は眠れないのに不思議と会社では眠れたりもしました。そんなわけでしたが、そんなことはどうでもよくなるほどゆり子さんのTシャツは変でした。プリントされたキャラクターがグロテスクすぎる。ロード・オブ・ザ・リングのゴラムをちょっとマッチョにしたようなその生き物は何なのか。どこに売ってるのかもわからない。やっぱり少し変な人かもしれない。が口には出しません。わたしとて紙おむつ履きたい側の人間ですから。何にせよ、図に乗るなよこのド早漏が…と自分を戒めました。

「どこ行きましょう?」と聞かれて「ナイショです。でも怪しいお店ではありませんよ?」と答えました。わたしの顔をじっとのぞき込むゆり子さん。それ以上近づいたらディープチッスの刑に処す…とどきどきしながら、巨乳の彼女と週三ペースでエッチしている罪深き職場の後輩に教えてもらったハンバーグがおいしいお店にお連れしたいと説明しました。「ハンバーグ…!」と目を輝かせるゆり子さん。お母さん、息子は今、太陽系で一番かわいらしい女の人と並んで歩いています。生きてるって素晴らしい…と幸せを噛み締めました。なので以前そのお店に一人で食べに行ったら店内がわたし以外全員カップルで、不思議なほど何も味がしなかった日のことは黙っておきました。二度と行くまいと思ってましたがまさかこんな日が来ようとは…と感慨深げに目を細めたわたしは、ハンバーグを想像しているのか隣で口を半開きにしている無防備な彼女をちらっと見て、目をくわっと見開き、フォォォ…と大きく息を吐いてから「急ぎましょう」と言いながらさりげなく手をつなごうとしました。手と手が触れた瞬間、脇腹をぐりぐりされました。そのようなことを三回ほど繰り返したところで「順番がちが~う!」とぷりぷり怒るゆり子さん。順番…?とわたしは困惑しました。

(続く)

 

ハンバーグハンバーグ

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