ベステンダンクの謎を追え

深夜にふと目が覚めるとだいたい、「ベステンダンク」という言葉が頭の中をぐるぐるしてゆきます。ああ、またか…となります。ずいぶん昔に流行った曲でこの単語を耳にしてから、意味がわからないままおっさんになりました。おっさん桃色の単語には無類の強さを発揮しますが、それ以外はてんでダメ。知ろうともしませんので、ちょくちょくこのような目に遭います。ぐるぐるするたび悶々とし、ややもすると眠れなくなりますが、そのような場合は「シローに1球、シローに2球…」と脳内伊東四朗の顔面にモヤッとボールを投げ続けるだけで、じきにぐうすか眠れます。しかも起きたらきれいさっぱり忘れているので、いつまでもちょくちょくこのような目に遭うのです。後悔はするのに反省はしない。振り返ると、そういう人生を歩んできました。そのことにまた後悔はするのに反省はしないという…。ともあれ昨日もぐるぐるしたのでボールを投げつけましたとも。でも眠れませんでした。なにごとか。なんというか、髪の毛がチリチリになってもおかしくないほどに、気になり具合がハンパなかった。やんごとなかった。ぶつけすぎたせいで脳内伊東四朗の顔面は腫れ上がり、血が滲み、歯は全部折れ、脳内ウェンツはそれを見て爆笑していました。悪いやっちゃでー。時計を見て、ぎょっとなりました。午前5時。目が覚めてから2時間以上も経っていました。明らかに睡眠時間が足りない。私は焦りました。お肌が荒れるのはいやなのです。お肌の曲がり角はもう幾度となく曲がり、ティンコ以上に曲がり、曲がり経て、曲がりくねり、曲がり果てています。となるともう、曲がるやいなや転校生(しかも美少女)と激突し、タンコブどころかゆくゆくは赤子までこしらえてしまう、いわゆるボーイミーツガールならぬボーイミーツボーイの愚息を欲しガール的な物語が始まるはずもなく、だってそのような夢物語はネコプロトコルでしか見たときないし、むしろ背脂製造機のごとき当方の場合、激突した際に転校生(しかも男子)にかすり傷を負わせてしまったせいで、転校生(しかも男子)の父親(しかも893)に法外な慰謝料をふんだくられて、計画的にご利用させられて、挙句の果てにインド洋らへんまでマグロ漁に駆り出される的なバッドエンドしか用意されていないのは明白。寝言は寝てから言えとゆわれるのがオチです。でも眠れないから今は無理なの。なら俳句を詠んでお茶を濁すっきゃない。

インド洋
肌よりもっと
荒れとるがな(字余り)

よっ、おもしろ大統領!とジガーズサンしたのち、天使達が歌いはじめ、やがて部屋の隅で体操座りをしている自分がいました。寒くないのに身体の震えは止まらず、空気清浄機から放出されるマイナスイオンとて傷ついた心までは癒してはくれないことを知りました。こうなったらもう、徹底抗戦の構えです。夜が明けようが、会社に行く時間になろうが、知ったこっちゃありません。今日という今日は「ベステンダンク」の鼻を明かしてやるのです。気を取り直してインターネットに接続しました。おっさんもたまには本気出します。本気汁はしょっちゅう出ていますが、そこはほっといてください。さっそく検索しました。でも「ベステンダンク」側も本気らしく、調べども調べども意味を説明しているサイトにビンゴしません。高野寛さんばっかり出てきよります。昔に流行ったあの曲を歌っていたのが高野寛さんであったとか、その曲は「虹の都へ」のアンサーソングとして作られたとか、トッド・ラングレンさんプロデュースだとか、彼についてやたら詳しくなる私。「ベステンダンク」がドイツ語だというところまでなんとか辿り着きました。じゃあ、なにゆえ彼はこのようなタイトルをつけたのかというと、東西ドイツの統一に影響を受けたというのが正解っぽく、リリースされたのが1990年ですから確かに辻褄が合っていました。もうおなかいっぱいなので高野寛情報はごめんしてください。でも核心にかなり近づいている、そんな感触は得ていました。あともうちょっとのはずです。ドイツ人の知り合いでもいればすぐに謎は解けるのでしょうけど、日本人の友達もあまりいない私には…と嘆きかけ、そして閃きました。我々にはそう、Excite辞書という強い味方がいるじゃあないですか。さっそく「ベステンダンク」と入力して、日→独で変換してみたところ、「Beth zehn tunkt」とそれらしき文字列が表示されたので、私はとても興奮しました。あとはこの「Beth zehn tunkt」をコピー&ペーストしてから独→日で変換するだけで…するだけで…

10例が浸礼を施すベス

ぎゃっ。謎が謎を呼び、寛がベスを呼びやがりました。この期におよんで新キャラを出してくるとは、おそるべし「ベステンダンク」でした。意識が朦朧とする中、私はベスが何者なのかを調べました。Wikipediaによると、古代エジプト神話における舞踊と戦闘の神様とのことでした。だから何。何なんですか。風呂敷を広げすぎるにもほどがある。そういうのはダメなライトノベルだけにしてほしい。電撃文庫だと3巻で打ち切られるパターンの。というか、そんなスペクタクルな感じの歌詞ではありませんでしたし。というより実のところ、「ベステンダンク」を日→独で変換している時点であかんがなとは思っていました。それをまた独→日で更に変換するなどもってのほかでした。1周回って元に戻るだけ。戻ってないけど。Excite辞書と同じくらいに私もアホでした。謎が謎を呼び、寛がベスを呼び、ルイはトモを呼びますか?もうわけがわからない。ここでギブアップでした。以降の記憶がありません。気がついたら夕方でした。いわゆるひとつのまあ、無断欠勤でした。ただ、今年通算4回目ともなると慣れたものであり、上司の携帯電話に「今日、休みました」と連絡するだけで事足りました。ふん、過去形なのは気にしないでくれたまえよ。そんなことより早く、「ベステンダンク」が何なのかわかりやすく説明してくださるドイツ人のひとを誰か私に紹介してください。できれば12歳から30歳までの女性を。小さめの日本製ではありますが、フランクフルトはこちらで用意しますので。Tschüss!

てくてくドイツ

てくてくドイツ

  • 作者: いしかわともこ
  • 出版社/メーカー: ワニブックス
  • 発売日: 2006/04/26
  • メディア: 単行本